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どこかの部屋、ドアがポツンと存在していた。 するとふいにかちゃりとドアが開いた。そこには薄こげ茶のマシュマロみたいな有機生命体がいた。変な生物がいた。見るからにぽよよんな、手足首もないイキモノ。あるのは間抜けな顔とにほほ〜んとした口である。むしろどうやってドアを開けたかが謎だ。 「初めてじゃない人もそうでない人もこんにちは!! オリジナル小説サイト『Tree House』の名城ゆうきデス」 ふかぶかと頭を下げる変な生物。むしろ首がないので少し名城の身体がつぶれただけである。とりあえず頭を上げる(ような感じ)と名城は話し始めた。 「今回、もっけもけ様もといもっけ様のサイト創設記念、いぇー!! もっけ様おめでとうごぜぇます!! を祝わせていただくことになりました! はい! 祝わせてもらいます! と、言うことでお三方COME IN!!」 ハイテンションなしゃべりの後、どこからか降りてきた縄を引っ張る名城。 ボンッ 「へえ?」 「おやおや」 「……」 白い煙が三つ立ち上がったかと思うと、中から人が出現した。ちょっとしたマジック。 「リクエストにお答えして呼んできましたーっ!! 我がサイトの小説、妖怪と暮らす正岡ファミリーの織り成すファンタジー(?)物語『正岡家と妖怪』シリーズキャラです! 知らない方は是非とも我サイトにお越しくださいまし!!」 何気に自分のサイトまで宣伝しだした生命体。お構いなしである。 「それはそれは光栄でございますね。お呼び頂いて有難うございます」 「おい、白露よ。ここはつっこむところでねーか?」 「そうですか覚さん。ここはつっこむところでございましたか……」 「いや……そんな妙に神妙にされても。オウヒメさんもこの生命体になんか言ってやってくれねーか?」 「……言うだけ気を労するだけだ」 「あ〜……もう、いいよ。あっし、面倒くなったさね」 「そうそう諦めが肝心ですよ、 では、皆さんクランクインしますよ〜」 * * * 「と、言うことでいかがなさいましょう」 のん気な青年の声に一人は桜の木に背をあずけて黙り込み、もう一人はへらりと微妙な笑みを浮かべてうなった。 現在場所はとある公園の中である。普通の公園と比べるとほとんどなにと言って特別なものはないが、その公園には植木が多い。遊び場から茂みを越えると木々が立ち並び、少し歩いていくと中でも一際大きな桜の木が奥には植わっている。この桜の木は春になるとそれはそれは華やかで鮮やかな桜を咲かせ、付近の住民を楽しませるため愛称までつけられた有名な桜。少なくても小さなマンション程度の高さとしっかりと見事な枝ぶりを持つその桜は今は冬のため、葉もなくそこはかとなくさみしい。かと思いきや、葉がなくてもその存在感と力強さはいまだにあり、どっしりとした静けさを保っている。 そこに三人はいた。 「白露はともかく、あっしはオウヒメさんに会ったのが数えるほどでさ、正直なにを話せばいいかねー?」 そう話したのは心を読むことができる妖怪、覚(さとり)。ぼさぼさの茶色の長髪を持つ、15・6くらいの少年のような姿をしている。ふいにどこからか簡易用イスを取り出すとそれに座った。 と、ここまで説明したがとりあえず、これ以降は名城が説明するのがめんどくさいので気分次第でナレーション調でお送りします。 ― この説明はお前だったのかよ! ― なにやら同じことを思った三人であった。 「とりあえずそうですねー……」 気を取り直して言ったのは白露。先程のん気な声で話した白髪の青年の姿の仙人である。実年齢はもうすぐ丸が三つつくという実はご老公。現在は冬のため、一応黒のジャンパーに青のジーンズというスタイル。しかし中は薄手のタートルネック一枚。 ちなみにここまで一言も発していない赤銅の髪を持つ少年は名をオウヒメという。先程説明した桜の木に宿る者である。今は桜の木にもたれかかり、うつむいたまま両腕を前に組んでいる。ここだけの話、多少長さに差異があれどこのメンバー、全員長髪だ。誰が一番長いんだろう。 それはさておきとりあえず白露の言葉に注目する二人。 「ここ最近の行事ということで、バレンタインにまつわる話はいかがでしょうか?」 「バレンタインー?」 「……」 口のはしを上げて在り来たりというような表情をする覚と顔を上げて白露を見るオウヒメ。 ふいに覚はじっとオウヒメを見ると、彼に聞いた。 「オウヒメさんは誰かに毎年もらうのかい?」 「ああ」 「ええ?! 本気か?!」 軽く聞いたつもりが思わぬ返答をされ、目を見開く覚。そんな様子に眉毛をつりあげると、オウヒメは顔をしかめた。 「……驚くことか」 「なにかと彼はもらっておりますよ。日和(ひより)や安栖(あんざい)方面の方などに」 驚く覚が妙に面白かったのか、それともオウヒメの顔が面白かったのか、くすくすと笑う白露。ちなみに日和は2月13日現在、名城のサイト上に出現しておりません。興味のある方は2月29日にお越しください。たぶん、出現予定。 「確か白露は毎年安栖日和にもらっていたな」 「そういえばあっしも毎年日和ちゃんからもバレンタインもらってる。ま、言うまでもなく毎回綺子には頂いてるけど」 少し頬をゆるませる覚。再度ちなみに綺子とは正岡綺子。当シリーズに登場する正岡邦雄の母である。 「我も毎年正岡綺子(あやこ)にも頂いている」 そうオウヒメが言った瞬間、ぴたりと覚の動きが止まった。 数秒後覚は笑顔を向けた。 「らしいな。あっしの綺子がいつも世話になっている。世話になってるやつらにはみんなあげるんさね、綺子」 心なしか棘の入った声。そんな覚の豹変振りに更に訝しげに顔をしかめるオウヒメ。少し困惑している。しかしむしろ知ってる人じゃなかったら軽く睨んでると勘違いされるぞ、オウヒメよ。しばらくにらみ合いのようなものが二人の間で続いた。 「……」 「……いや、気分悪くさせるつもりはなかった。すまないさね」 ふいに少しばつの悪そうな顔を向ける覚。まだ納得いかないような嫉妬のような、そしてむくれてるような複雑な感情を秘めたオーラがただよっている。その表情で特に気にするほどではなかったオウヒメは首を横に振った。 そんな覚に苦笑すると、白露は物憂げに溜め息をついた。 「うちの日和もまめな子でしてね……知り合いの妖怪精霊どころか、よく彼女の店に来る客にも渡すのですよ。しかも全部手作りで。おかげでバレンタイン目前になると徹夜などして……体が弱いのに」 「へぇ? 安栖の知り合いだったら結構いるだろうに……」 ちょっと境遇が似てる白露の話に興味を持ったのか、話に乗り出す覚。 「……確か喫茶店の店長だったな」 「……じゃあなおさら大変でね?」 オウヒメの言葉にあちゃあと声を出す覚。彼女の言葉に白露は力強くうなづいた。 「そうなのですよ。それでも毎年あきずに……。私の分も仙界へ送ってくださるのですが、この時期気が気でございません。しかし、あの笑顔をされると咎める気にもなれず……困ったものです。父親の宿命なのか、娘の笑顔にはどうも弱いのですよ」 (……違う。日和はお前の娘ではないし、お前は父親でもない。子孫だろう) ふうと溜め息をつく彼に心の中で突っ込みを入れるオウヒメ。そのとおりだ。 「それは……あっしもわかる気がする。バレンタイン間近になると綺子も張り切ってチョコやらクッキーやら作りまくって家中が甘い匂いだらけ。んで綺子を見てみれば目の下にクマ作って笑顔で『一緒に作る?』って聞きやがるんでさ。で、結局あっしが見かねて手伝うことになるんだがね。まったく義兄としてはあの笑顔には頭が上がらない」 (……覚、お前そもそも女だろう) 首を振って仕方なさそうにする覚に突っ込むオウヒメ。再度突っ込み、ご苦労様。しかし心の中というのが惜しい。だが覚の場合それもオッケーだ。 「ああ、お気持ちお察し致します。もう、あれですね。毎年バレンタインが楽しみでもあるのですが、歴史から隠滅してさしあげたくなるほど憎くもあります」 (……お前本気でやりかねんな) 「わかるわかる! だいたいバレンタインなんてどっかのおっさんが処刑された日でねーか。なんっで綺子があんな苦労するような傍迷惑な行事があるんだか。それにあれは日本の行事でねぇ! 首相にちょっとお願いして行事からはずしてもらおうかと何度か思ったさね」 (……お前を敵に回すと我でも恐ろしい) 「そう、それに日和も日和ですべて手作りにせずともよいのですよね。市販のでよろしいのです。そう、家族以外はチロルチョコで十分です」 (一人二十円で十分と?) 「そのとおり。それにそもそも絶対他のやつらにあげる必要なんてねぇ。むしろあげるな。そしてあっしにくれたら他のなんてM&M’sでいいんさね」 (むしろ一粒でいいと?) 「ええ、日和もあのしつこい幼馴染どもなどほっておけばよいのです。彼らに渡すくらいなら私が奪って食べます」 「ああ、敏之の野郎もバレンタインにいちいち綺子に会いに戻ってくるんでねーよ。海外で単身赴任しとけ! お前なんてデコペンのチョコで十分!!」 そう言い終わるとしばし笑みを浮かべながら見つめあう覚と白露。 ふいにがしっと互いの手を握り合うと彼らは極上の笑顔を浮かべた。 「やっぱり白露は話がわかる人だと思っていたよ」 「貴方もなかなかの人物と改めてお見受けしました」 「今度酒でも交わしながらじっくり話さなねーか?」 「ええ、是非とも。なんでしたらこの後でもよろしいですよ?」 (……白露、我は久方ぶりに黒い会話をするお前を見た。覚も恐ろしい) 和気藹々とまさかの意気投合をする二人に乾いた視線を黙って送るオウヒメだった。 「……これが今流行の『モエ』なのか?」 ぽつりと呟いたオウヒメの言葉にぴたりと白露達は会話を止め、彼に振り返った。 「……『萌え』と」 「……おっしゃいました?」 彼らの顔つきは笑顔のまま少し、強張ってる。そこはかとなく不自然な笑みに怖いものを感じるが、そこはオウヒメ、彼は動じない。が、少し顔をひそめた。すっかり会話に熱中していると思っていたので聞かれてたとは思わなかったのである。 「……違う、のか? 『モエ』というのはなにか一つのことに対し、執心、好意や執着することなんだろう? なら同じ……」 「「違いますね」」 毒のある笑みで爽やかに言い放つ覚と白露。嫌―な予感がして身じろぐオウヒメ。しかし時すでに遅し。彼は地雷を踏んでしまったようだ。 「私の日和に対する愛をたかだか『萌え』で片付けられるのはいかがなものかと存じます」 「そうさね。綺子への愛情を『萌え』という枠に納めるのはちっと失礼でねーか?」 「……」 「まず、『萌え』というものは定義が定まったものではありませんが、とりあえず『ある対象物に対し、ある特殊な点において好意や愛情を抱くこと』と理解していただければよいです」 「しかしだ、あっしは綺子に対して『ある特殊な点において』愛情を抱いているわけじゃねーんだ。つか、なんだその『ある特殊な点』ってーのは」 「そうです、『ある特殊な点において』という枠なぞにはいくらつめこんでも納まりようがないどころか不十分です」 「『すべて』だ。あっしは綺子の全部を愛してるっていうことさね」 「私も日和の存在すべてが愛しいのです。断じて『萌え』ではございません」 「……」 「確かに日和は『ドジっこ』とか『天然』とか『不思議ちゃん』というジャンルに当てはまる性格をしておりますが、私の場合日和の行動すべて、すべてにおいて愛しさを感じます。そんなものは一例に過ぎません」 「それを言うなら、綺子も『照れ笑顔』とか『癒し系』とか『強気』とかよく言われる萌え属性を持ってるが、違うさね! そんなものだけじゃなくてそう、あっしは綺子の存在自体を愛してる!」 「…………………………」 それから延々と白露と覚の織り成す絶妙なテンポで彼らの『愛』についての熱弁が繰り広げられた。 ―30分後 「で、わかって頂けたで……」 「……わかって……」 振り返ると、力が抜けてうつむいているオウヒメ。思えば計40分はこの話題が続いていたことになる。桜の木の根元に座ってこめかみを押さえているオウヒメの姿にやっと正気に戻った白露と覚は冷や汗をかいた。 「……わかった」 ふっと薄ら笑いを浮かべるオウヒメ。なにやら一つ、大人の階段を上ったような表情をしている。 「我がお前達の想いを軽く見ていたのが元より過ちだったのだな」 「い、いえオウヒメ様。私達があまりに過ぎたことを申し上げただけでして……」 「そ、そう! オウヒメさんは悪くない。いやだな、あっし熱くなり過ぎでねーか」 はははと空笑いをする覚と珍しく動揺する白露。 「……お前達が正岡の現当主と安栖家次期当主に抱く想いはこれ以上にないほど理解した」 「……お、オウヒメ様」 「……えーっと」 「すまない」 狼狽する二人にオウヒメは頭を下げた。 「頼む、許してくれ」 ―少々お待ちください 「いやぁ、まさかあっしがこんな公の場で熱を上げてしまうとはな……失敗したさね」 「……私もどうも駄目なのですよね、日和と妻に関することになりますと。情けございませんね、10世紀近く年を重ねてますのに」 もはや病気に近いらしい。沈む二人。そのそばですでに立ち直ったオウヒメ。さすが年長者である。世渡りの仕方を心得ている。 「なにはともあれ、勿怪勿怪殿にはすまないことをしたな」 「いえ、オウヒメ様『勿怪勿怪』じゃなくて『もっけもけ』でさ」 手を横に振りながら突っ込む覚。実は勿怪(もっけ)ってこんな字を書くのだ。ちなみに物怪とも書く。最近知った。 「…………申し訳ない、もっけもけ殿」 「これで終いにしてしまうのは茶を汚したままで心もとないので、何か別の話を致しましょう」 「えーっとなにがいいかね?」 「やはりバレンタイン関係のことがよろしいでしょうか?」 「そうさねー……」 うーんとうなる白露と覚。ふいに覚はオウヒメを見た。 「……なんだ」 「オウヒメ様って、恋されたこたぁありますかね?」 「…………」 ぴくりと眉を吊り上げるオウヒメ。そのそばで目をぱちくりさせ、感心したような笑みを向ける白露。 (それをオウヒメ様に質問されますか。ツワモノですね、覚殿) ふぅと溜め息をもらすと、オウヒメはくしゃっと前髪をつかんでつぶやいた。 「…………あるが」 「あるのか!?」 「勿論ございますよ」 驚愕した様子の覚に笑いをこらえる白露とそれを見て再び溜め息をつくオウヒメ。 「ぜひ詳しく教えてくれねーか」 イスをそばまで持ってくると、桜の木下に座るオウヒメに興味津々と言った様子で問う覚。こういう話は結構好きらしい。というか顔が近いぞ覚。 「…………つまらんが?」 近くに寄った覚から少し身を引くオウヒメ。 「私も聞いたことがないので、もし差し障りなければ是非ご拝聴願いたいです」 いつのまにか桜の木の根元に身を落ち着かせる白露。ということはオウヒメは二人に囲まれたように座り込んだ形になる。話を聞く気満々な雰囲気である。そんな彼らに観念したのか一間を置くと、オウヒメは話し出した。 「…………つまらぬ、昔話だ」 そう言うと、左手の拳をさっと開いた。瞬間、オウヒメの手の中には扇があった。普通の者とは違い、少し大きめのそれは黒の縁に金の模様を彩どった華やかで荘厳とした気配を漂わせている。 「なにも持たぬ我に、この扇をくれた」 そう言うと、そっと彼は彫られた模様をなぞった。おそらく長い年月経っているだろうに、そんなに傷や汚れが目立ってない。むしろ輝いてさえ見える。 扇の根元の先に付いた紐を指にからませながら見るオウヒメの表情はまるで遥かなたを見るよう。 「あの御方は本来ならば雲上の者」 すうっと扇を開く。 「哀しくも美しい……だがとても温かで強い。そんなお方だった」 オウヒメの扇を見つめる瞳は穏やかで優しい色を宿していた。 「…………オウヒメ様」 そんな彼を見る白露と覚。 「……その人とはもう、会えないのか?」 「会えぬわけではないが、無闇に呼んではならぬ。そして我にはその資格も理由もない」 「……そんな」 「……オウヒメ様がそこまでおっしゃるのならば、その御方は……」 ふいに考え込んだ白露が言った。 「もしや……核神もしくは幹神であらされるのですか?」 「カクシンとカンジン? 確かオウヒメさんは枝神。末端の神――葉神よりは上位だけど幹神の下位……」 「そうだ、あの御方は核神。手の届くはずのない……」 オウヒメはぱしっと扇を閉じた。 「ゆえに我の舞は特別なときにしか見せぬことにしている」 じっとオウヒメは扇を見た。ほのかに表情を和らげながら。 「あの御方に賜った、大切な御扇なのだから」 そんなオウヒメに言葉もない白露と覚。 「……」 「……」 「……」 「……」 「……」 「……」 「……」 「……」 「……」 いつまで黙っとくつもりだお前ら。 「……名前くらいは、聞いたのか?」 「名…………」 覚の問いに思い出したようにオウヒメは呟いた。 「そう言えばあの御方はよく、呼び捨てにせよと仰せになった。上の神はどうもそうせぬ方が失礼という噂があったが、事実だったな。何度も『渉』と呼べとおっしゃっ……!?」 彼ははっと顔色を変えた。気づいたのである。みだりに名を呼んではいけなかったのに呼んでしまったのだ。 「へーっ可愛い名前でねーか」 そんなオウヒメをよそにへらへらと笑いながら言う覚。白露はというと、ふいに思案顔になると顔をひそめてあごに手を当てた。 「ちょっとお待ちください。その名、どこかで……」 ぶぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!! 「ヒメちゃん今の問題発言アウトー!!」 変な効果音とともに有機生命体の声が上から落下した。 というか実際丸いぽよぽよした生物がオウヒメの目前に出現していた。 「うおっ?!」 「ゆうき殿?」 奇声を上げる覚と落ち着き払った様子の白露をよそに半円のような瞳をオウヒメに向けるへんてこ生物、名城ゆうき。 ビシッ 「っ!!」 目に当たる寸前くらいのところで指を指されたオウヒメはびくりと身じろいだ。彼は相当まずいことをしたのか、その瞳が明らかに泳いでいた。 「……今年は彼女のバレンタイン(義理)クッキーなしね」 「……………」 「……あっし、オウヒメさんのあんな悲痛な表情はじめて見た」 「……私とて知り合ってから数百年、見たことがございませんよ」 「……マジか」 「……ええ」 ふいに変なぽよぽよ生物がオウヒメから視線を横へずらした。見ると目が横線になっており、口がたらこ唇という。ちょっと決まり悪くなったらしい。 「……うん、ごめん、嘘」 「……」 「……あからさまに安堵している」 「……今日はオウヒメ様の意外な一面を垣間見ることができる日でございますね」 あきれた笑いを浮かべる覚と目を見開く白露。ふんと鼻から息を吐くと不思議生物は腰に手(?)を当てるとキッと睨みにならない睨みを利かせた。むしろ変な三白眼になっているだけ。 「とりあえず、そこまではいいけどその先は話すべからず」 「胆に命じる」 「切腹させるよ」 「……わかった」 「……押されてる。オウヒメ様が押されてる」 「……今、私達は奇跡の瞬間を目にしているのですね」 思わず様付けする覚とくすりとおかしそうに苦笑する白露。というか、不思議生物の睨みはオウヒメに効いたらしい。 するとするすると上から紅い幕がおりてきた。いわゆるあの、演劇にある幕である。 「なんでさ、これ」 降りてくる紅いカーテンを見上げながら言う覚。 「それはだね覚もとい藤貴くん! もうクランクアウトということなのだよ!」 「というか、何気にばらすでねーよこの変態ものぐさ生物。あんたをばらそうかね?」 「いぇーい、私は変幻自在みらくる生命体なのでー分裂なんてちょろいちょろい」 すでにカーテンは彼らの数メートル頭上にある。本当に無理やり終らせるらしい。 そんな状況に白露はただのん気に構え、オウヒメは我動じずの状態で黙している。 「では! こんなお目汚しのものをしゅーりょーさせて頂く!!」 ぷにょらぷにょらと分裂を始めたキモイ生命体もとい名城ゆうきの声とともに幕が下りた。 終 |