ある夏の物語[2]



『8月21日 晴れ

 友達に会いました。友達はあせをいっぱいかいて、木かげの下や木の上、空中にうかびながら休んでいました。

 今日は晴れです。ソーダーみたいな青い青い空が広がっています。その空に、ギラギラとイバルように太陽がいます。みんなはこんな暑苦しく笑う太陽からにげるためにすずんでいるのです。でも、セミがミンミン太陽に負けないぞーとさけんでいて、すずしさ半げん。それでも彼らがいるから夏って感じなんです。
 とにかく、太陽はギラギラ笑っていて、セミはミンミンさけんでいます。そして、友達はそんな暑苦しさからのがれるために、木の下で休んでいるんです。
「おー……あちぃ」
「温暖化やばいんじゃねーか?」
 カマイタチくんの言葉に天狗の遊佐之坊(ゆさのぼう)がうちわをパタパタさせながら言いました。カマイタチくんは木の枝からだらんとだれています。遊佐之坊はもっと気だるげです。彼は地面にねそべってうつぶせになっていました。
「もう、ほんと。おら腐って発酵しそうだわ」
「あんたなんてほんと、腐ってそうだねー」
 お水を飲むカシャボに毛倡妓(けじょうろう)さんが言いました。毛倡妓さんは見るからに暑そうです。後ろと前がわからないほどカミの毛が長いのです。ある意味あの、SADA子よりもすごいです。だから暑そうです。でも、カシャボは見た目、すずしい感じです。頭もてっぺんだけ髪の毛があるだけだし、服も青色です。でも……
「……のわぁっ!! おらの足くさっ! 腐ってる!?」
 カシャボ、自分の足をにおって死にそうになっています。お馬鹿さんです。カシャボは元は池とか川から出てきたからちょっと水くさいのです。今みたいな夏はさらにドブくさくなります。体あらってほしいです。
「わたし水辺に戻るっ。蒸発しちゃうよぉ」
 ぬれ女子(おなご)さんが泣き出しそうになりながらカミをかきました。でも、いつもならびしょぬれのはずなのに、服もカミの毛もしめっているくらいです。ワンピースが乾きかかっています。
 あわてて、手に持っていたおいしい水2リットルをかけてあげました。でも、なんだかまだ足りなさそうです。ぬれ女子さんはお家に入ってシャワーをあびにいってしまいました。
「ちくしょう! すべてはオンダンカのせいだっ。オンダンカの!」
 うんうんとうなづくみんな。みんな、だんだん暑さの矛先が温だん化に向けられてきています。それほど暑いのです。
「こう言うときにだなぁ……雪女とか雪ん子……つらら女とかがいやぁ……便利だったのによぉ」
「雪女、里帰り中だってさ」
 毛倡妓さんの言葉に遊佐之坊はため息をつきました。でもね、そうじゃないと雪さん、つららさん死んじゃう。それに山の神様おこっちゃうんです。山の神様は雪女さん達のお父さんです。それに里帰りしても実は雪女さん達、働いてくれてるんだよ? 妖怪クーラーで冷気タンクに冷気をつめて冷たい空気を出すクーラーの冷気を作ってくれたりしてくれてる。かげのコウロウ者だね。ありがとう、雪女さん達。おかげで家の中はすっかりすずしいよ。
「もうこうなったら……」
 遊佐之坊とカマイタチくんは顔を見合わせました。
「いっそ思いっきり暑くなって祭しようぜ!」
 カマイタチくんが飛び上がりながら言いました。すると、みんないっせいにピクリと反応しました。
「なぁに? 祭?」
「祭!」
「そう祭」
「やっりたーい!」
 となりを見ると、いつの間に帰ってきたのかわかんないですけど、ぬれ女子さんがはねながらはしゃいでました。たっぷりびしょぬれで元気です。
「祭! 祭じゃ祭!」
 次々と元気になっていくみんな。妖怪はどうしてかお祭りが好きなのです。
「みなの衆を呼べぇい!」
「ほいっさぁ!」
 遊佐之坊の言葉にカシャボはビシッとけい礼をして、急ぎ足でどこかへ言ってしまいました。なんだかみんな、急に雄叫びを始めてお祭りをすることになったそうです。お祭りは大好きです。でも、何のお祭りをするんだろう。ま、いいや。とりあえずお祭りに行こうと思いました。



 さっそくお母さんにお祭りのことを話しました。妖怪のお祭です。前から行きたかった。でもお母さんは笑ってだめって言った。ムカついた。お父さんとお母さんは仕事で手が空いてないのです。一人で行くと危ないからだめなのです。いいもん、お父さんがいるから。
 お父さんに聞いてみました。お父さんわ頭をなでていきたいのかぁ……といいました。お父さんと一緒にいきたいとだきつきながら言いました。お父さんはいいよと言いました。
やった。
 後ろでお母さんがお父さんを張りたおしていました。でも気にしません。


 結局、お祭りに行けました。お父さんは行けないみたいです。一緒に吟太郎さんが来ました。吟太郎さんは貒(まみ)です。マミて言うのは豆だぬきの妖怪のことです。
そしてお兄ちゃんも来ました。…白露(はくろ)様のほうがよかったのに。
白露様は仙人で仕事があるからなかなか会えない。ちょっと不満です。
 でも吟太郎さんは大好きです。綿菓子を買ってもらいました。
「妖怪祭名物、女郎ぎぬ菓子だ。面白いじゃろう」
 吟太郎さんがこっちを向いて言いました。お兄ちゃんは今、友達のところにいっていていません。お兄ちゃんだけずるいです。でも、かわりに綿菓子を買ってもらってのでよかった。
 お祭で買った綿菓子は吟太郎さんがいうとうり、面白くてとても不思議です。女郎ぎぬ菓子は引っ張ると、シャボン玉みたいにきらきら色を変えて糸が出てくるんです。そして、さくと、ふわぁと雲みたいにふくらむのです。始めは小さいのにお得な気分になります。
 でも、どうやって作ってるんだろう。吟太郎さんに聞くと、にこりと笑っていました。吟太郎さんは今、人の姿に化けていないので、姿がかわいい。でも、おっきい。お父さんより大きい。見上げながらちょっと思いました。
「ああ……名前のとおりじゃ。女郎ぎぬ菓子。それはな、女郎ぐ――――――――――――っももももももっ!?」
「人間の女の子にそんなこと教えるもんじゃないわよ? 虫って嫌がられるんだから」
 後ろを振り返ると、着物を着たきれいな女の人がいました。吟太郎さんの口には白いきらきらした糸が巻き付いていました。たぶん、この女の人がしたんだと思います。女の人は手がいっっぱい、6本あるみたいです。きっと女郎グモさんです。その後ろに同い年くらいの子がいました。手が6本あります。でも、かっこよくてきれいでした。
「きみ、正岡の?」
 その子が聞いてきました。妖怪はけっこう正岡の人か、と聞いてきます。どうやら正岡は有名みたいです、妖怪たちの中では。
 うんと答えると、その子はふーん……と面白そうに笑ってじーっと見てきました。そして――
プシッ
 ……なんか、おでこにくっついた。男の子を見ると笑っていました。指を私に向けて笑っています。指からはきらきらきれいな糸が出ています。それがおでこに伸びてくっついていました。この糸、なんだか見たことがあるのは気のせいかな。
「とっろぉ! つか、面白い顔ぉ! 正岡の娘最高!」
 ゲラゲラ笑うくもの子。悪戯されたけど、笑っているその子の顔がかっこいいから、どうしていいかわからない。ほっぺたなぐったらもったいない気がする。
「こら、おやめなさい。この小娘、困ってるじゃないの」
 女郎グモさんはほほえみながら言いました。女郎グモさんはやっぱりきれいです。黒いゆかたを着ている姿がお似合いです。きらきらきれいなゆかたで、ちょっと着てみたい。
 すると、ふと女郎グモさんが綿菓子を見ました。
「それ、買ったんだ」
「おう、おいしかったってさ。な?」
 吟太郎さんは聞いてきたので言いました。すっごくおいしくてきれいで大好きですって。
 すると、変なことが起きました。くもの子が真っ赤になっているのです。
「な、な、なんでそれをっ」
「おいしくて、きれいで、だぁいすき……ってさ?」
 なぜかにやにやしながら女郎蜘蛛さんが男の子に言いました。どうしたのと私が聞くと、その子はただぱくぱく口を動かすだけです。……金魚すくいの金魚みたい。それに顔が赤いし、りんごアメみたい。
「~っ」
 じぃっと見ていると、くもの子は逃げていきました。私のおでこには糸がぶら下がっています。……おでこから毛が生えたみたいで嫌だ。
「思春期ね、うちの子も」
「若いなぁ」
 女郎蜘蛛さんと吟太郎さんは一緒にうなづきました。どうして若いって言ったのかはさっぱりわかりません。大人の話すことは意味不明です。
 そうしていると、お兄ちゃんが帰ってきました。……おでこに毛を生やしてどうしたんだと言われた。ムカついた。わざとしてるんじゃない。


 
……というふうなことがありました。その後鬼火と妖火のまいがありました。これは花火みたいだけどちょっとちがっててすごくきれいでした。また、ハロウィンにもお祭りがあるみたいなので、妖怪の祭りに行ってみたいです。今度は白露様と一緒に!』




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