「それ以上でもそれ以外でもない……だってさ」 どうよあれ、ととなりの彼が聞いてきた。そんなことどうでもいい、彼ら……アヤカシ様と天使の言うことは私たちにしたらただの茶番にすぎないのだから。でも、それ以上でもそれ以下でもないってどんな状態なんだろうか。私はふと考えてみた。どうでもいいことだったけど。 真ん中ってとこだろうか?でもいったい真ん中ってどこ?なにをさすの?何かの基準とかがないとそれは成り立たないはず。しかもその基準てのはそもそも不安定なもの。そんな不安定なものが基準の「それ以上でもそれ以下でもない」はなに?そこまで考えて頭に湯気が立っているような感触がし始めた。これ以上私に考えろなんていうのは無理。 「あれってさ、ホント認識してるだけってことだよねー。それってなんだかねー」 となりで彼がうなった。そっか、単純に認識しているだけって意味か。 彼のおかげで頭がすっきりした。すると、続けて彼は彼らの方を見ながら言った。 「ていうか、そんなんかなしすぎるし」 私は彼らのほうを向いた。 あの天使は少々やさぐれている。天使と言っていいのかわからないほど、目が凍えるように冷たくて、無愛想で、言葉がきつくて、人を信じられなくて、笑わない、カナシイ天使。きっと、まわりの空気に傷つきすぎて、臆病になって、でも憎むことも許すことも感じることも放棄して、自分を守ろうとしている。そんな天使さん。 「でも、天使はさ。恵まれてるよね」 私は呆れた顔で天使の友、アヤカシ様が天使の仕事をただ淡々とこなしていく姿を見ているのを見た。 すると隣の彼は私のほうを見た。 「心配してくれる人がいる」 そう、天使は一人じゃない。しかも信頼のおけるあのアヤカシ様だ。 「それ以上でもそれ以下でもない。そんなの贅沢なヤツの言うこと」 「だね。それにその言葉ってさぁ」 いったん間をおいて笑うと、となりの彼は面白そうに顔をにやけさせた。 「いくらでもこれから関係を変化しようがあるってことだよね。カチカンとかキモチなんてさ、時間とともに変わってくもんだし」 「うん、そだね。ていうか、天使は期待してる。アヤカシ様がそれ以下でも以上でもないどうでもいい存在だったら黙すよ。言うのメンドイし」 「期待って天使自身の変化を?」 「そ」 そして私たちはそのまま彼らを観察し続けた。カワイソウだけどカワイクナイ臆病な天使ちゃんを。 |