あくびをしながら伸びをしているとそんな会話が耳の中を飛び込んできた。また奴らか…まったく飽きぬ奴ら。 まだ寝起きで薄くしか開けられない目で水晶が映し出す景色をさっと見渡すと、奴らには死角で見えないところに妖怪が二人、奴らを観察しとる。一方は獣系の、他方は九十九神の類の妖怪。東西コンビで有名な妖怪どもだ。おや、あちらにもおるなぁ。あれは仙客殿と悪魔の姉上殿。いやはや、みな根性が座っとる。かく言うわしもそやつらとなんら大差ないがなぁ。 わしはむくっと起き上がって本格的に奴らの動向を楽しむことにした。すっと水晶に手を当て、目を瞑り、再びまぶたを開くと、目前には奴らがいる場所が鮮明に映っておった。 「ふむ。さすが天使。そつなく仕事をこなしておる。」 わしは感心した。その手さばきといい、出来上がったものの仕上がり具合は見事なもので間違いが一つもない。 「天使が気になるのはわかるが、アヤカシもつっかかることもなかろうに。」 わしは溜め息をつき、あざけるように笑うアヤカシを見た。 『ただの独りよがりって言うんだよ。』 アヤカシは言う。ふむふむ、天使が何かまたそっけない言葉をだれぞに言ったようだな。 「アヤカシというより、その方は神霊とお呼びしたほうがよいのでは?」 「いや、あれはもうすでに個として独立しているに近い。だからアヤカシだ。」 ふり返ると、幻獣がわしの後ろに立っておった。わしの友だ。 「それにしてもよくつっかかる。寂しがり屋同士、気が合うのやもしれぬ。」 わしはそっと笑みをうかべた。 それにしてもアヤカシ、おぬしは己を表に表すようになったなぁ。昔は神霊そのものであった。神の気、神の代弁、その分身だったおぬしが。その証がおぬしの言った言葉によく表れておるよ。 『なんて言うか知ってる?』なんて、本当はおぬしが定義づけたいだけだ。自分が相手を把握していると、自分は相手をわかっているのだという主張だ。何気ない言葉、しかし反発心と苛立ちと焦りと少し悔しさが秘かに含まれておる。そういう言葉だ。 アヤカシにとって、天使は大切な仲間であり友。そんなあやつのことが本当は数多わからないところがあるのだろう。そしてわかろうとし、焦り、わからぬことに反発を覚え、つっかかってしまう。無意識におのれの心の痛みに苛立ち、悔しさがこみあげながら。 それでも、苛立ちながらも、昔の自分の鏡をあざけりながらもおぬしは言い続けるのであろう。まぁ…口がひねくれておるのはあの者の神霊であるがゆえなのか。それが一つの愛情表現でもあるのやも知れぬ。 わしは知らずにくっくと笑いを漏らしていたようだ、幻獣がこちらをいぶかしげに見ておる。 「知っているのではなく、おぬしがわかりたい、そうであると信じていたい。そう思っておるだけだ」 そう言うわしを、「独り言はお一人のときになさってください」とあきれながらそっぽを向く幻獣であった。 |