おまえとこいつときみ3


3「ただの独りよがりって言うんだよ」(魔術師)


「は?」
 急にそんな声が聞こえて思わず、素っ頓狂な声を上げてしまった。しかも授業中なのにもかかわらず。ああ……先生、すんません。目を開けながら夢を見るという器用なことをしてしまった。みんなもこちらを見ている。
「なんだ? なにかわからないところがあったか?」
 そう言うと先生は近づいてきた。表情は怒ってはいない、ごく普通の表情だ。よかった、怒ってない。
「なんでもないです。一瞬この呪文の意味を考えていてわけがわからなくなりましたが、解決しました」
 そう言うと、私はにっこり笑った。すると、先生は「そうか……」と言って教壇に戻っていった。興味をなくしたのか、他のクラスの子らも先生の話を聞くやら、内職するやら自分の好きなことをし始めた。
 それにしても、『ただの独りよがり』……か。私は頭に響いた先ほどの言葉を反芻した。
 つまり、自分さえよければいい、自分勝手な奴という意味の言葉。でも、所詮みんなたいてい自分勝手の独りよがりじゃない?基本的にはみんな、自分が一番かわいいんだから。でも、そんな当たり前のことをあえて言うってことは、相当相手が独りよがりだってことを言いたかったんだろーね?
 ほおづえをつくと、私はぼーっと黒板を見た。先生がさっき習った呪文の応用例を解説してる。そんなんわかっているし、聞いてなくても知ってるから聞き流しておいた。
 昔から、目の前にうっすい透明な映写機で映されたような映像を見ることが多い。しかも音付き。で、少なくてもどこかでこれは実際起こったことが見える。そんでこれは時間帯なんてランダムで、どんな状況であろうと急にうっすらと浮かび上がってくるんだよね。で、今日も突然授業中に視えだした。しかも今回のは……あいつらじゃん。
 目の前にうっすらと見える馴染みの天使とアヤカシに顔を向けながら、私は溜め息をこぼした。つか、相変わらずケンカばっかしてるなぁ……。
 てか、アヤカシも言うね。『独りよがり』なんて。天使は独りよがりか?ああ……人が心配してるのに余計なお世話だってあしらうとことか?うーん……そう言えなくもないかなぁ。でもさ、思うんだけどあいつちゃんと仕事はこなすし、いいやつなんだけどねー。顔も結構美人だし。むしろさ、独りよがりってのは自分に欲があるやつのこと言うだし、天使は違うんじゃないかな。
 独りよがりってのは、相手のことを考えず、自分のことだけ、自分がよしとすることだけをする。独りよがりってだから人には理解されにくくて、孤独になっていく。そしていろんな偏見を持たれる。それを天使に言っちゃあいけないんじゃない、アヤカシ。天使は自分のことはあまり考えてない性格だし。それに独りよがりは言われれば言われるほど、余計独りよがりになって独りになっていく。そして一人よがりはその人の精一杯の強がりでもある。相手がわかってくれなくて、それが悔しくて悲しくて、傷つくのがイヤで自分だけは守ろうとする。
 でもま、あいつらの場合じゃれてるだけなんだよね。私はくすっとみんなには聞こえない程度に笑った。
 て言うか、今回は何の話がきっかけなんだろ?よしっ、次の昼休み飛翔魔法使ってお邪魔しちゃおっと♪まだ言い合いをしているあいつらを視ながらそう考えていると、ちょうどチャイムが鳴った。今から行くぞぉ!