[3] オレらが教室に着いて、10分もしないうちに、いつもに増してダルそうな担任が入ってきた。おそらく、昨日大学時代のサークル仲間と同窓会もどきがあったらしいから疲れているんだと、隣に座る女子が話していた。確か、その子は先生の近所に住んでいるらしい。 なんつーか、ご愁傷様だよなぁ……と思いながら隣に座る、ウラちゃんに目配せした。すると、ヤツも苦笑いして肩をすくめていた。彼女は結構な知りたがりで有名なんだ。彼女にかかれば何でも調べ上げられてしまうとか……。なんでそんなに知りたがるかわからんけどなぁ……女って不思議だ。 「ま、オレが興味あるのは錦だけだけど」と思いながら、左ななめ前方に座る錦を見た。 錦は一番窓際の列に席があって、前後となりに座る女子と話していた。日差しがちょうど錦と他ニ名にさしていて、なんていうか、錦、めっさキラキラしてるっ、駄洒落じゃねぇけどさ。しかし、マジで後光がっ。神様、オレの席をここにしてくれてありがとう! でも、できれば隣がよかったっ。 オレはしばらく、顔をゆるませながら頭の周りに花を咲かせていた。 そんな熱い視線に言うまでもなく、錦は気づいていて、友人に「ドンマイ」と肩をたたかれていた。その景色が日常茶飯事になっているため、クラスメイト達も気づいていて、皆、そっと秘かに心の中で錦にエールを送っていたのだった。 けれどそれをオレが知るよしもない。なにせ錦に夢中だったから。あー、シャーペン持つ指可愛いー。抱きしめてー。 すると、先生が黒いクラス名簿の先で、教壇をコンコンッとたたく音が聞こえた。口惜しい、と思いながらもオレは錦から視線を前へ移した。 「゛あ〜、静かにしろや。転校生を紹介すっから」 その一言で少し静かになったクラスが再び騒然となった。しかし、先生は特に注意するまでもなく、教室のドアから頭だけ出して、廊下にいるらしい転校生に中に入ってくるように言った。 ……つか、センセめんどいからって首だけ出すなよ 誰かが急にドア閉めたらどうすんだよ……。と思いながら、先生なら逆にそいつをシメ返しかねないな、とどうでもいい想像をしてみた。 すると不意になにか少し、空気が変わった気がした。不思議に思いながら入ってくる転校生を見た。とたん、クラスの女子から黄色い悲鳴が上がった。確かに女子が騒ぐほど綺麗に整った顔つきをしているヤツだった。でも…… 「よしっ、錦は反応なしだっ」 俺はひそかにガッツポーズをした。さすが錦だ。顔だけで相手に惚れ込んだり、きゃーきゃー騒ぐような、そんじょそこらの女じゃねぇ。それでこそ錦っ。 「……聞いてないぞ、ヤツは」 急に根岸はオレを目で指しながらそう言うのが聞こえた。ウラちゃんもなぜだか、呆れて言葉も出ないというような顔をしている。 そんな彼らの視線に気づくと、邦雄は彼らを見た。 「なんだ? なんか言ったか?」 「いや……らしいと言うか。」 「『お?あいつさっき吉良さんと一緒いたヤツじゃん。こりゃなんかハプニングの予感かぁ? ……ってマサちゃん?』……と浦本が言ってたんだけどな。いや、流石だな。まったく聞いてないし動じない」 「いや、わざわざそこまで言わなくてもいいし」 先ほどウラちゃんが言っていたらしい言葉を完璧にリピートする根岸に、ウラちゃん本人は焦っていた。 って錦といたヤツ? 俺はもう一度転校生の顔を見た。 「ん、ああ……そう言えば錦と話してたヤツだな」 「……」 再びウラちゃん達の方に顔を戻すと、あいつは黙っていた。 「なんだよ」 「一生吉良さんウォッチングしながら万年独身でいとけやこんにゃろう」 至極、真剣な顔で舌打ちするウラちゃん。どうやら彼のあらぬスイッチを押してしまったらしい。なにかを期待していたのか、すごく残念そうな顔だな、おい。 すると、後ろから根岸がウラちゃんに言った。 「小学生からの付き合いの俺からの助言だ。こいつに言うだけ無駄だ。諦めろ」 なんだか馬鹿にされた気がするけど気のせいか? しかもウラちゃん、そこで悟りきったような諦めきったような顔すな。 そうこうしているうちに転校生が黒板の前に立ち、先生がチョークを持って彼の名前を書き始めた。すると、それまで騒いでた女子が少し静まった。 「伊達貴衡(たかひら)だ。自己紹介、どーぞ」 チョークを置いてクラスに言うと、先生は手をはたきながら転校生を見た。 「はじめまして、伊達貴衡です。こちらに越して来たばかりなので色々と不慣れなこともありますが、わからないことがあったら、よろしく」 そう言うと、伊達は爽やかに笑った。 それがどうやら女子にはキタらしく、結構な数がキャーキャー騒いでいた。なんつーか、こういうすかしたヤツが好きなのか? 女子は。 「……」 伊達、貴衡ねぇ…… オレは机にひじをつきながら、周りの女子の餌食にされるであろう彼を見た。頑張れと言うしかないな。結構うちのクラスの女子、マムシのような子多いしなぁ。最近流行りの肉食女子? 彼の幸運を祈ると、ちょうど1時間目の授業の開始を知らせるチャイムが鳴った。 「あ、じゃあ伊達の席ここだから」 先生がそう言うのが聞こえた。どこに座ったか見ていない。けど錦の隣や前後にはならないようだから、特に気にせず教科書を机に出した。 |