八十八物語




第三章 二度あることは三度ある

「ってまだあるのぉぉ?!!」
「よねええええええええええええええええええ!!!」
「来なすったああああああああああああああああ!!!」
 嫌に懐かしい声に条件反射的に目を覆いながら叫んだ。いや、だって心の準備ができてない。もう一度あの衝撃に耐えられる心の準備がっ。それにだ、なんたって7年も経ってるんだ。さらにパワーアップ(?)していることも無きにしも非ずなだっ。
 くっ、こうなったら意地でも漢を見せてやるっ。
 目から手を離してカッと目を開いた。
 そこにいたのは……っ。
「……」
「また会えたな!」

 小学低学年の男の子だった。

 ちなみにマッスリィではさらさらない。普通の肉付きの少年。いや、米殿下まんまのマッスリィなヤツが現れたら人間でも引くかもしれないけどさ。というかさ。
「……誰あんた」
「もう覚えておらんかお主はああああああああああ!!」
 口調は殿下のまんまかよ。
 というか果てしなくその姿に似合わない。というかな、いやなんていうか……
「いや、ごめん。説明聞くからその姿でその言い方やめて、お願い切実にお願い」
 というか……今そこに米殿下の幻影が見えた、気がする。いやなんつーかさっきの表情、似てましたよ。うわたぶんこいつ本物だ。第六感が言ってる。シックスセンスが言っちゃってるよ。くそっ、確かに次に会うならせめて人間であってくれって思ったけどさ。
 悶々と頭を抱えていると、にっこにこしながら(元)米殿下はこちらを見ていた。くそっしかも無邪気な子供の姿になりやがって。あれか、そんなに人の反応で遊びたいのかっ。
「とりあえず説明しよう。あれから色々試行錯誤の末人間になることができてな」
 試行錯誤ってなんだよ。と思いながら少しは(元)米殿下少年の話を聞いてやることにした。自分も年をとった。なんだか反論するのも疲れてきた。
「というかぁぶっちゃけ人間の方が動きやすいしぃ」
「あ、そ。で?」
 ギャルっぽい言い回しにそっけなく答える自分。その態度に一瞬固まってこちらを見る(元)米殿下少年。
 あれ? 今なんかデジャヴみたいのが……
 そして
 ビッ
 親指を上げるとにっこり爽やかな笑顔で笑いなすった。
 うわぁその仕草まで同じですか。
 またもや背後にダンディズムマッスリィ米殿下がご光臨してしまったじゃないかくそっ。
「あ、しまった」
 すると突然気がついたように手を打つ米少年。そうしていると普通の少年だけど、これがあの米殿下だったかと思うとどうしようもなく複雑な気分になってくる。
 いやというかなんで米殿下の記憶持って生まれてきたよ畜生。前世のことは普通忘れるだろ普通!
 とんでもないものにセカンドインパクトでは飽き足らず三度目まで会うとは……。もうどうとでもなれと諦めてきた自分。
 しかし。
「名前名乗るの忘れてた。私の名は稲田ススムだ」
「……」
 そうきたかああああああああ!!
 思わぬ米殿下副作用に乾いた笑いが込み上げてくる。いやなんていうか諦めとも怒りともアンニュイとも笑ってるとも言える不気味な表情だったと思う。
「あ、ちなみに本当は米太郎ってつける予定だったらしいけどな!」
 そう名づけたらマジで親とやらにゲリラ攻撃を仕掛けてたな。マジで。
 自嘲の笑いがこみ上げてきた。うわぁ、今日は色んな笑いをする日だな自分。次は嘲笑か。爆笑はしないだろうがな。
「そうそう、知っているか? メートルは昔『米』と書いたそうだ。さすが日本国民、米を生活に組み込んでいるよ。あとあれだ、コメディといのがあるだろ? さすが米。笑いと米は世界を救うとわかっているらしい。それとな、ラブコ……」
 嬉々として話し出す(元)米少年。性格もそのまんま受け継いでいるらしい。ものすごくこいつを締め上げたくなってきた……。
 今度はシニカルな笑いになる自分だった。

* * *



 かくして自分と(元)米妖怪は出会った。ものすごくめでたくないことに、実はこれから末永く付き合うことになる。いや、もうこうなったらやけだやけ。口うるさいガキのお守りをするということにしとけばいい。
くそっ。
 ただ一つ問題は時々かの米殿下に先祖帰りするらしかった。しかも週1くらいで。
 ありえねーってマジありえねーつーか先祖帰りってなに? 人間から米にどうやってなるよ? というか動物から植物にどうやったらなれるんだよ。……あれ? てーか米殿下って……植物だよね? え? 動物? あれ? もしや虫だったとか? 
 …………ははははは。もう笑うしかねーよ。
 もはや日本文化を特に食の視点から楽しめなくなってしまった自分だった。
 え? なぜ食以外もかって? 言わせるな! もう何も言わせるなあほんだらーっ!!!

(終)




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